宮崎ひでじビール
ベルギー修道院で育まれた、歴史と信仰に根ざしたビアスタイル。フルーティーな香りとスパイシーな余韻、美しい黄金色が魅力のハイアルコールビールは、伝統的なスタイルながら、新しい発見を飲み手にもたらしてくれます。
「トリペル」は、1930年代にベルギーのトラピスト修道院で誕生したビアスタイルです。トラピスト修道士とは、厳格な戒律のもと自給自足の生活を送るカトリックの修道士たちで、ビールづくりは中世から続く伝統的な生業のひとつでした。修道士たちは、修道院の維持や慈善活動のためにビールを醸造・販売してきました。トリペルはその中でも特に強いビールを表す名称で、濃い麦汁で醸されたアルコール度数の高いビールです。修道院ビールは品質の高さで評判を呼び、信者や巡礼者を通じて市井へと広まり、今日ではベルギーを代表するビアスタイルのひとつとして世界中のビールファンに愛されています。
今回の題材となったのは、生賴範義 作『時を継ぐ者たち』(1983年)。SFアドベンチャー増刊「平井和正の幻魔宇宙Ⅱ」の付録ポスターとして発表されました。独特で幻想的、エキゾチックな世界観は、SFファンのみならず誰が見ても印象に残る作品です。ひでじビールの醸造士は、このイラストから受けたイマジネーションをもとに醸造レシピを作成、完成したのが今回の「生賴ベルジャントリペル」です。
ブルワーが作品から受けたイメージ
描かれている女性3人のそれぞれのイメージは異なりますが、作品としてのインパクトと一体感があると感じました。構成が美しくまとまりがあり、どれかが欠けたり前に出すぎるとイメージがガラッと変わってしまう。「一体感」や「バランスの取れた美しさ」はビールづくりにおいても非常に重要なものです。作品の色も印象的でした。クラシカルな雰囲気に加えエキゾチックな印象は、今回のビールレシピに大きく影響していると思います。数々あるビールの古典スタイルの中でも、この作品を見た瞬間に「トリペル」が浮かびました。
「Hana Malt(ハナモルト)」は、19世紀のチェコ・モラヴィア地方で誕生した歴史的な大麦品種「Hana(ハナ)」をルーツに持つ、モルトの“原点”とも呼ばれる存在です。世界中のモルト用大麦の祖先ともいわれ、その優れた醸造適性から、イギリスやドイツ、アメリカへと広まり、クラシックラガーの礎を築いてきました。
Hana Maltは、淡く透明感のある黄金色と、やわらかな麦の甘み、ビスケットのようなほのかな香ばしさ、上品な味わいが特徴です。今回のトリペルにおいては、ベルジャン酵母由来のフルーティーでスパイシーなアロマや、副原料であるオレンジピール、コリアンダー、クローブと調和し、全体のバランスを整える“土台”の役割をしています。ビールの歴史に欠かせないモルトの祖先Hanaはまさに「時を継ぐ者」にふさわしいモルトとして選びました。
ベルギー伝統のビアスタイル「トリペル」は、フルーティでスパイシー、そして高アルコールながらも軽やか―まさに三位一体のバランスが求められる、職人技のスタイル。まだ国内では一般的なビアスタイルではありません。今回は『バランス』をテーマに掲げ、「時を継ぐ者」に登場する3人のキャラクターから着想を得た3つの香り(アロマ)を軸に設計しました。
①フルーティ:あんずやプラム、オレンジピールの柑橘感、そして年を重ねるごとに豊かになるふくよかな熟成香。②スパイス:クローブとコリアンダーが織りなす複雑で奥行きのある余韻③酵母感:ベルジャン酵母本来の華やかなエステル・フェノールが、ひとつの要素として香りと飲み口の両面で一体感を演出
ホップにはチェコ産「ザーツ」を使用。今回ホップは主役ではなく、あくまでも香りを構成する要素のひとつ。おだやか・クラシカルでありながら、華やかさと深みを併せ持つ設計です。目指したのは、インパクトがありながら、美しく、飲み疲れない一杯。どれか一つが突出しても破綻してしまうからこそ、すべての要素が静かに調和する「美しさ」を大切にしました。
品目:ビール
原材料名:麦芽(英国製造)、糖類、ホップ、オレンジピール、コリアンダー、クローブ
アルコール度数:8%
内容量:330ml
保存方法:高温を避け暗所に保管
*長期熟成可能品につき、賞味期限はございません。
私たち宮崎ひでじビールは「ビール醸造を通じて食の文化と地域の魅力を伝え続ける」ことを目指しています。
今回縁あって訪れた故生賴先生のアトリエで受けた魂を揺さぶられた衝撃。それは、「私は肉体労働者であり、作業の全工程を手作業で進めたい」と語った生賴先生の「魂のクラフトマンシップ」への尊敬と共感、クラフトマンシップそのものへのオマージュといえるものでした。
宮崎の地から、世界に向け生み出された作品群。ただその業績と魅力はまだ十分に知られているとは思えません。私たちは、私たちの「クラフトビール」を通じて今の世代に、地域に、改めてその価値とクラフトマンシップを伝える意義がある。「日本が世界に誇る偉業と地域の誇りを、クラフトビールを通じて伝えたい」その想いから生まれたのが今回のコラボレーションラベルシリーズです。
代表取締役 永野 時彦
生賴先生のアトリエに初めてお邪魔した際、アートに疎い私でさえ鳥肌が立ったのを、今でもしっかりと覚えています。もちろん生賴先生の作品は見たことがありましたが、「これも生賴先生だったのか」と気付かされた作品が多々ありました。
飲むアートとして、OHRAIファンはもちろんのこと、クラフトビールファンの皆さんにも広く、この商品を届けたいと思っています。
事業統括部長 金井 大
世界そして国内の「観る者を驚かせる」「世界へ誘う」数多の作品がここ宮崎で生まれていた!
そしてその職人=造り手としての姿勢と覚悟を知った時、「生賴範義先生の偉業はもっと広く知られるべきだ」との想いを強く強く感じました。「ビール醸造を通じて地域の魅力を発信する」私たちにとって新しいチャレンジになりますが、クラフトビールという切り口で先生の作品を紹介頂ける機会、ご縁を頂けたことに感謝致します。そして願わくば、展覧会等の機会でぜひ先生の生の作品に触れて頂きたい。実際みるその作品の迫力、精緻さ、世界観は一生に一度ならず見る価値ありです!今後も続くこのコラボレーションから何が生まれるのか、今から楽しみです!
宮崎にアトリエを構え、生涯で3000点余もの作品を描き上げた職人「生賴範義」。その作品のジャンルは多岐にわたり、「ゴジラ」「スター・ウォーズ」「グーニーズ」等の世界に衝撃を与えた映画ポスターや雑誌「SFアドベンチャー」、書籍類の表紙挿絵、商品パッケージ、広告等…。イマジネーションと眼、手から生み出された精緻で臨場感あふれる数多くの作品は、イラスト業界のみならず見る者に衝撃を与え続けましたが、「外部との接触を断ちひたすら仕事に打ち込む」スタイルで、その人物像は広く知られてはおりませんでした。スター・ウォーズ監督「ジョージ・ルーカス」の訪問希望を「仕事がしたい」と断った逸話からも、その人となりが浮かびます。